2016-12-04
興味津々のキラキラした眼差しを受けた景品は,棒の上でかなり不安定な姿勢になりながらも,落ちることを頑なに拒んでいた。女の子が歓声を上げていたので,
「なかなか落ちないもんだねぇ」
と,景品に視線を置いたまま話しかけると,
「もうすぐ落ちるよ。あとちょっと」
と明るい声で励まされた。なかなか面白そうな子だった。
最後の意地を見せて棒に引っかかっていた景品も,その後300円ほどかけて,手前を持ち上げたり,アームで直接押し込んだりすることでやっと落ちた。ギャラリーの手前,小銭がある間に落とすことができてホッとした。落ちそうで落ちない絶妙なバランス状態がしばらく続いたので,女の子も落ちるまでのドキドキやもどかしさを楽しんだことだろう。
取り出し口は機器の下部にある。正面に,上へスイングする透明な1枚扉が付いており,それを押し開けて中の景品を取り出す仕組みだ。しゃがみこんで見ると,透明な扉の先に景品があった。扉を押し込む。ところが...取り出そうとする景品が邪魔になって扉を押し込めない。
景品は長さが45cm,楕円の長径が30cmほどある大きな枕だ。それが,縦に立った状態で落ちてきたので,押し込む扉に干渉してしまうのだ。自動販売機で買ったペットボトルが,縦にはまって取り出しにくくなったところを想像してもらいたい。
これは,一旦枕を横にしなければならない。しかし扉が押し込めなくて開きが少ないため,腕を奥に入れられない。こうなったら仕方がない。枕は押しつぶすことができるので,力任せに扉を押して無理やり開きを確保し,手を突っ込んで強引に枕を横にすることにしよう。
右手で扉を押し,できた開きに左手を突っ込む。窮屈な体勢でしゃがんでいるため右手に力が入らない。そのため扉の開きはなかなか広がらなかった。奮闘していると,先ほどの女の子が状況を察して手伝ってくれた。ちょこんとその場にしゃがんで扉を一緒に押してくれる。おかげで景品を無事取り出すことができた。
女の子は,目を輝かせて取り出した景品を見ていた。なんとも屈託のない子だ。その時,その子の後ろにおばあちゃんが控えていることに気づいた。シルバーの髪を短く切りそろえた上品そうなおばあちゃんだ。女の子が景品をすごく気に入っていたようだったので,この子にあげてしまおうかとも思ったが,今会ったばかりの見知らぬ男からプレゼントを受け取ることは,おばあちゃんにとって気持ちの良いものではないだろうと思いやめた。
人懐こいこの子のおかげで,思い出に残る一日になった。
追記
帰宅後,この枕は自分の部屋の隅に置いていた。しかし,部屋をちょっと空けたすきに,忽然と部屋から消えてしまった。娘がこっそり持って行ったためだ。気に入ったらしい。
この出来事に,小さい頃,子供達に幾度となく読んであげた昔話「ねずみのすもう」を思い出した。「ねずみのすもう」では,おじいさんとおばあさんが,相撲好きのねずみのために餅とまわしを作ってあげる。それを棚に置いておくと,夜中にねずみが見つけて,喜んで持ち去ってしまうのだ。
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