UFOキャッチャーを一緒に楽しむ見知らぬ子
2016-12-04


 柔らかい日差しに包まれた週末の午後。風はほとんどなく,日向ぼっこをするようにじっとしてしていた大気は,14度まで暖められていた。久しぶりに冬のコートを脱ぎ,身軽な装いで外出したくなる陽気だ。平日に溜め込んだ心身の疲れを部屋でだらだら癒していた僕は,羽根を伸ばすために駅前繁華街に出かけることにした。

 仙台駅前にある20分100円の立体駐車場に車を止めて,しばらく街を歩く。午前中はほとんど動いてないので,少しでも運動量を上げようと普段より大股で歩く。

 アーケード街はすでにクリスマスの装いとなり,通路天井から吊るされた華やかな飾りと電飾が雰囲気を盛り上げていた。店頭の所々でビラやティッシュを配る女の子の服装も,サンタやトナカイ,またはパーティーをイメージさせるきらびやかなデザインになっている。通りをいっぱいに埋めて流れて行く大勢の人たちの表情も心なしか楽しそうだ。

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 遅めの昼ごはんを食べた後,行きつけのゲーセンに行った。目当てはUFOキャッチャー。ゲーセンに寄るのは駅前に来た時の習慣のようなもので,良さそうな景品があるか一応チェックする。店内を一周して目に留まったのは「すみっこぐらし」のキャラクター枕。手前と奥に棒が二本,横に渡してあり,景品は棒に対して垂直にまたがるように置いてあった。

 取れそうかどうか,手応えを確かめるために100円を入れて試してみた。すると,景品の手前部分を持ち上げて,右に少しスライドさせることができた。これは,スライド移動を繰り返し,景品を棒に対して平行にすることで,棒と棒の間から落とすことができそうだ。そこで両替機で1000円分の100円玉を準備し,早速チャレンジすることにした。

 100円を入れて右へスライド,また100円を入れて右にスライド...これを繰り返し,800円くらい使った頃には,「そろそろ落ちそう」というところまで景品が移動していた。もうすぐだ。

 UFOキャッチャーで景品が落ちる間際は,好奇心を強く掻き立てる。操作主が見知らぬ誰かであっても,今まさに落ちようとしている景品がそこにあれば,ふと足を止めて行く末を見守ってしまうことがある。

 この時の僕にも,その瞬間を今か今かと待ち構えているギャラリーがいた。その子はアームが動くたびに,僕の右後ろをちょこまかして,景品のずれ落ち具合を確かめていた。「落ちるところを早く見せて!」という期待のオーラを放ちながら。

 時々「あー」とか「落ちそう」と発する声から,小さな女の子ということは分かったが,振り向いてどんな子か確かめることはなかった。それは,その子に威圧感を与えると思ったからだ。目があった時に,「勝手に見るんじゃないよ」という誤解をその子に与えてしまうことを怖れた。逆に僕は,見知らぬその子に最後まで楽しんでもらいたいと思っていたのだ。ギャラリーを意識したらいつも以上に気合が入った。

 新たな100円玉を投入口に入れるために視線を右下に落とすと,視界の端にその子がいた。背の高さから,小学1年生くらいだろう。ブルーの瞳に鼻筋の通るくっきりした顔立ち。肩より長いシルバーの髪を頭の後ろで1本にまとめていた。なんと,外人の女の子だった。日本語がぺらぺらの。


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